日本は職能給(年功序列が前提の人をベースにした給与形態。新卒採用から能力が徐々に上昇していき、給与が上がっていく)、欧米は職務給(職務内容を前提とした仕事をベースにした給与形態。その仕事が出来るかどうか、成果主義。)
今回の記事では、米国を中心に多くの企業(日本以外の)が取り入れている「職務給による給与形態」理解のための一助として、Job Descriptionとは何かについて解説していきます(職務給と職能給のプロコンは別の記事に記載します)。
- Job Description(職務記述書)とは何か?
- Job Descriptionを作成する目的は?またその作成方法は?
- Job Descriptionはどんな時に使う/使われるのか?
- 日本ではJob Descriptionは浸透するのか?
1.Job Description(職務記述書)とは何か
先ず、そもそもJob Descriptionとは何か?Job Descriptionとは「各ポジション(職制・役職)毎に、そのポジションに求めらえる職務内容を詳しく記述した文書」のことです。日本語に訳すと職務記述書となります。日本ではあまり聞き馴染みがありませんが、欧米諸国やアジア(というか日本以外の国)では、日々の業務、採用、評価においても、無くてはならない極めて重要(Essential)なものです。
Job Descriptionに記載されている一般的な項目は以下の通りです。()内は職務によったりします。上長のポジションだと、部下のマネジメントがあるのでSurpervisory Responsibilitiesという項目が出てきます。
- 職務のポジション名 :Job Title
- 必要不可欠(最低限必要な)業務および責任 :Essential Duties and Responsibilities
- 職務の内容と範囲
- 求められるスキルや資格 :Skills and Abilities. Certificates and Licenses.
- 学歴/関連業務の経験 : Education/Experience
- (監督責任): Surpervisory Responsibilities
- (職務環境):Work Environment
- (要求事項):Physical Demands
2.Job Descriptionを作成する目的は?またその作成方法は?
なぜ欧米企業では、このJob Descriptionを作成しているのでしょうか?この問いに答えるためには、先ずは日米の雇用慣行の違いを理解しておく必要があります。以下に比較表を掲載するので参考にしてください。
さて、結論から先にいうと、Job Descriptionを作成する目的は、大まかに言うと会社経営が出来ないからです。
これを掘り下げていくと、
・Job Descriptionによって各自の責任や遂行すべき仕事、期待される成果等の「会社全体に対する貢献度」がわからないと「人事評価が出来ない」
・Job Descriptionもよって仕事の範囲や内容が分からないと「採用が出来ない」
(求職者は企業が掲示するJob Descriptionの内容を理解してから応募し、企業側も求める人材像と候補者のマッチングが高い確率で実施可能。より優秀な人材の採用が可能)
・それぞれの社員の職務についてJob Descriptionに明確に記載することで、あいまいさが排除され、業務上の無駄や非効率が少なくなり、組織の生産性向上につながります。
・Job Descriptionをもとに評価を行うので、評価への不満や不公平感が起こりにくい。
等の理由があげられます。
日米の雇用慣行の相違点
日本 | 米国 | |
根底思想 | 1.終身雇用 Life time Employeyment2. 年功序列 Seniority System3.企業別労働組合 enterprise unions | 1. Employment at Will 随意雇用2. Equal Employment Opportunities 雇用機会平等3.Equal Pay 同一労働・同一賃金が原則 |
採用 | 新卒一括採用・雇用流動性が低い・入社後に役割・レベルを決定 | 随意採用・雇用流動性が高い・雇用前に候補者の経験(特定ポジション)を参照 |
雇用志向 | ジェネラリスト指向(何でも屋)・企業内異動により、多様な業務を行う→Job Descriptionの必要性は少ない | スペシャリスト志向(専門家)・Job Hopping(且つ特定分野でのキャリア形成)・個人個人の役割分担が明確→Job Descriptionが必要 |
昇進昇格 | 勤続年数に従い、ある程度の職務階層まで昇格、責任範囲も連動して上がる | 上にポジションがある場合は上級職を社内でオファー、無い場合は外部調達 |
給与 | 職能給(能力別)・年功序列で勤続年数に従い上昇(能力伸長)・昇進、昇格とともに人に付いていく「人」ベースの処遇体系 | 職務給(職務別)・原則、各ポジションに給与レンジが設定されている(同ポジションでも職種によって給与レベルは異なる)・ポジションの市場価値を把握する必要性がある(自社給与は相場とマッチしているか?) |
評価 | ・能力評価(職務遂行能力の評価が結果的に年功評価となる?)・役割評価(職位に求められる成果、責任)・実績評価 | ・成果(組織への功績や業績)・MBO(目標管理制度)(マネジメントは成果を、一般職は職務に対して評価) |
Pros | ・雇用保障・低失業率。愛社精神UPにより高い労働生産性が期待できる(終身雇用)。・いずれ役職・給与が上がる→生活の安定と安心感、離職防止(年功序列)。・ブルーカラーとホワイトカラーが同一組合のため、問題に迅速かつ柔軟に対応可(企業別労働組合)。・全員が管理職への道 | ・業績に応じて人員数の調整が比較的容易。・雇用市場の流動性が高く転職しやすい。・ハイポ人材は、一層早く昇進、高賃金Get。・JDに基づき、公平で客観的な評価がしやすい。・定年退職が無いため、いつまでも働ける。 |
Cons | ・転職およびキャリアアップが難しい・人件費高騰・能力のある若手のモチベーションダウン・ぶら下がり社員・100%主義による労働生産性の低下・保守的思想、事なかれ主義(波風立てたくない、誰かがやってくれるだろう)・格差(年齢、性別)・女性の労働機会減少・長時間労働 | ・転職率が高い・雇用が守られない・リストラが比較的容易(At Will)であるが、差別法に基づく雇用訴訟に注意・大きな所得格差・配置転換や転勤はあまり見られない |
3.Job Descriptionはどんな時に使う/使われるのか?
2.記載の通り、業務範囲の明確化と、採用や評価時にも活用されます。
4.日本ではJob Descriptionは浸透するのか?
日本の企業では、終身雇用をベースにした職務給という賃金形態が主流のため、欧米流のJob Descriptionに相当するものはありませんでした。しかし、近年ではそのような状況が変わり始めています。特に、グローバル展開を進めている先進的な企業は、海外の従業員が増えるにつれ、Job Descriptionに基づくグローバルな人材マネジメントに移行しているのです。因みに私の所属する会社も、近年は職能給型の賃金形態にメスを入れ、職務型を導入しようとしています。

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